命の印
すべての人が親を持ち、その親から肉体を受け取って生まれてきます。
至極あたりまえなことだけれど、いつの間にか私達はその親のことを忘れたり、時には疎んじたりするのです。
「もう自分は大人なんだから、独りで生きられる」そんなふうに意識しながらも、心のどこかに子供のようにおびえ、寂しがるその存在を認めざるをえない時があります。その子は、私達親から受け継いだ考えやしきたりを守り、同じ怖れをいだきつづけます。
そして、私達を産み落とした親達も、同じくその先達から脈々と伝わる血〜DNAを引き継いでいるのです。
私達はおどろくほど沢山のもの(良いものも悪いものも)を、この血筋から受け取っているようです。肉体的には、その顔立ちや背格好、ふとした仕草まで、似たくて似たわけでもないのに、多くのエッセンスを受け継ぐのです。
そして、肉体以外にもその恩恵(と呼べないものもありますが)は宿っています。それが、家系に伝わる怖れに満ちた観念なのです。
良い観念は受け継がれ、心の滋養として息づき、やがて生きる支えとなります。しかし、怖れの観念は、無意識にすり込まれ、知らないうちに自分を否定的な行動に導く原因となってしまうのです。
なぜそんなことが起こるのでしょうか?どうして、血族や家族といえども一人一人が独立した個人であるはずなのに、欲しくもない因果を背負ってしまうのでしょうか?
「ファミリー・シークレット」の著者ジョン・ブラッドショーは、家族が封印した暗い秘密に鍵があると分析しています。
その秘密は、その持ち主(親や先祖の誰か)が、墓場まで持っていったとしても、不思議とその子孫が無意識に掘り起こし、自分自身の秘密として抱えてしまう奇妙な連鎖が起こるのです。
もちろん、人によっては、親族とは縁の薄い人もいるでしょうし、あまり影響を受けずに生きる人も多いでしょう。しかし、受け入れ難い自分のネガティビティに手をこまねいたり、自分が被った理不尽な出来事が、過去の闇に繋がっていることに気づく時、あなたはふとこのファミリー・シークレットを疑うかもしれません。
もしも、自分が家族に関わるしがらみやトラウマを持っているとしたら、それを振り切るように生きるという選択肢もありますが、もう一つの選択肢は、今自分の抱く怖れのルーツを探り出し、間近に見つめるという道が残っています。
その道を辿ることは気が重い作業でしょうけれど、決心して取り組むとしたら、これまで抱えて来た大きな荷物を解放することができるのかもしれません。
今年のゴールデンウィークのインナーチャイルドワークは、そんな家族の絆に秘められた呪文を解くための機会となりました。
5日間のワークショップでしたが、ほとんどの人が初日から深い心の扉に手をかけて、祈るように過去へのルーツを辿って行きました。
最近は、こんな重いテーマを扱うことが無かったけれど、マインド・デトックスの本を書いてからは、気が重くなる最後の棚卸しをしたいと私自身が願っていたのかもしれません。
怖れは、どんなに払拭しても、どこからともなくやって来て、現実をあっという間に塗り替えてしまいます。自分という基盤のなんと儚げなことか、何度も思い知るのです。
どんなに現実に抗おうとしても、それがどれだけ不毛な試みなのかを知っていることが恨めしく思えるほど、現実という幻想がリアルに重く感じることがあります。
ただ、そんな時、自分が生きてきたルーツをもう一度紐解き、そこに引っかかっている秘密の呪文を解読することで、自分の『今』にもう一度光を照らすことができるのです。
そのために出来ることは、あまり難しいことではありません。
ただ、今を見つめ自分の痛みが変化するのを待つのです。
呪文だと思っていたインナーチャイルドの声は、自分にヒントをくれるメッセージだったとわかるのです。
ワークの中でようやく「自分はもう、赦されても良いんですね…」とつぶやき、安堵のため息をつく人…。「私は、私の人生を生きて良い」そう宣言し、涙する人…。
どの人の顔も、ある強い意志をみなぎらせていました。
人は三つの種類のカルマを以て、輪廻を繰り返していると言われています。
その一つが魂の輪廻の旅。そして、一つは今生の人生で創り上げた人間関係によって形成されるカルマ。そして、もう一つが自分が何度も同じ血族に転生し、浄化することを目的としたカルマ。
私達が、偶然にこの家族に生まれてきたのではないという所以はそこにあります。
なぜ、こんな家に生まれたのだろう? そんな風に悩む人は少なくありません。
厳しい環境の中、サバイバルする人も居れば、どんなに裕福であっても、人から恵まれていると思われていても、そこで生きている人には様々な悩みがあるのです。
その悩みは、独立しても自分を逃してはくれません。
インナーチャイルドは、独立していこうとする大人の自分の後ろ髪を引くのです。
私はここに居る
私は過去に生きている
私には未来はない
なぜなら未来は苦悩に満ちているから、
それはやってこないほうがいいの
私の命の印は、この痛みそのもの
それが私の生きていた印
それが私の命の印
このインナーチャイルドの声を聞く勇気を、誰もが持っています。
そして、私達にできることは、彼らの印となる心の痛みを解放し、あらたな印として、ワクワクと生きる希望へと塗り替えてあげることなのです。
多くの人が、「インナーチャイルドワークは辛くて苦しいもの」「闇を掘り下げることが好きでなければできない」という、思い込みをしています。
一般的なインナーチャイルドワークがどんなものかは別として、私にとってのチャイルドワークは、とてもワクワクする体験だと思っています。
インナーチャイルドの苦悩にフォーカスすることよりも、彼らの本質を見つけたら、それは、エネルギーに満ちた源そのものなのだと理解出来るでしょう。
あなたもぜひ、耳を澄ませて、チャイルドの声を聞いてください。彼らはいつでも、あなたとの対話を楽しみにしているのですから。