「真我を描く」
副題が心に響きました。
僕は顔や容姿にコンプレックスがあり鏡を観ることが嫌いです。
学生の頃。
鏡を観ることができず、適当に描いた自画像。
絵の中の自分がどこか悲しげな表情で僕を見つめていました。
あれから16年。
二度と自画像を描くことはないと思っていました。
しかし、アトリエワイエスさんのワークショップと出逢い、自分の問題と向き合っていくなかで世界の見方が変わりました。
ここでならできる。
本当の自分を描きたい。
自分を好きになりたい。
そんな想いから参加しました。
期待と不安が入り交じる中、自画像制作がスタート。
デモンストレーションを観て、いざ描こうとした時、描くことに慎重になっている自分がいました。人前で鏡を観ることが恐かったのです。恐る恐る鏡を観て描き始めるものの、すぐに鏡から目をそらしてしまいます。常に不安の中で迷いながら描いている自分、サポート待ちになる自分。
明らかに他の物を描いているときとは感覚が違いました。
アドバイスを何度も何度も受けながらも、その通りにできない自分が恥ずかしく、情けなくなりました。しっかりと観て描いているのに描けていない現実に自分でも驚きました。
「僕には本当の自分がみえていないのではないか?」
そう感じたとき、一人だけ取り残されているような孤独を感じました。
絵の中の自分が寂しげにこちらを見つめています。
「なんで描いてくれないの?」
責められているような気持ちになりました。しかし、なぜ思うように描けないのかが分かりません。僕には、自分の目を信じて描いていくしかありませんでした。
そんな姿を観ていたエリさんが、僕のつけた影を観て言いました。
「ここに影は無いでしょう?ありもしない影を見ているのよ」
「ありもしない影?でも、僕にはそこに影があるように見える。エリさんは何を言っているのだろう?」
と不思議に思いました。
訳が分からなくなっている僕にエリさんは…
「これは幻想。幻想を描いているんだよ。」
その言葉を聴いた瞬間、はっとしました。
今の自分が抱えている問題。潔癖症、脅迫神経症のことが頭をよぎりました。幻想という言葉が…ありもしない不安や恐怖を自ら造り出している今の自分と重なったからです。
「幻想をみている。」
自分の抱えている問題と自画像を描いている自分が重なったとき。なぜ思うように描けないのかが分かりました。
僕は自分で造り出したコンプレックスから…自分の顔を真っ直ぐ観ることができていませんでした。全体を観ながら描いていかなくてはいけない影を…部分、部分でしか観ることができなかった僕は陰影の濃さを正確に認識できていなかったのです。本当の自分を観るということへの恐怖心が目を曇らせていました。
エリさんの言葉が僕の中に入ってきた時。
ぼやけて見えていた世界がクリアになり、視界が開けるような感じになったことを今でも覚えています。
その瞬間から、絵が変わりはじめました。正確には僕の心構え、見方が変わったからなのかもしれません。まるで、魂が宿ったかのように真っ直ぐこちらを見つめる絵の中の自分。先程までとは違い、穏やかな表情をしています。しかし、穏やかながらも眼はしっかりとした意思を伝えていました。
その眼を見た時、自然と涙が溢れてきました。今まで、しっかりと観ようとしてこなかった自分。
自分を認めること、大切にすることを絵の中の自分が教えてくれました。
ありのままの自分を受け入れられた時、鏡を真っ直ぐ観ることの出来ている自分がいました。絵の中の自分と一体となっている自分がいました。
「この角度から鏡を観て、自分を描くことができるのは自分だけなんだよ」
エリさんの言葉が心に刺さりました。
自分の存在が尊いものであることを忘れていたのです。
自画像を適当に描いたあの時、僕は自分を粗末に扱っていたのかもしれません。
それができるのは自分だけなんだと理解できた時、学生の頃の自分に素直に謝ることが出来たのです。
僕には、静かに自分をみつめる表現アートセラピーでした。
このワークショップで、今までみつめることのできなかった自分と出逢うことができました。
ワークショップではミラクルが起こります。今回も素敵な体験が僕の世界を広げてくれました。みなさんに感謝しています。
この奇跡との出逢いをこれからも大切にしていきたいと思います。
(30代 男性)
REPORT
Drawingアートセラピー入門 Self Portrait ~真我を描く