気づくと半世紀以上生きて来て、直に戦争や災害とはどこか無縁な人生でした。
日本人は平和ぼけしているなどと言われてきましたが、このような事態に直面して初めてその意味をかみしめています。関東に暮らしていて、物不足や停電などの不便はあるけれど、一旦テレビを消して外の風景に目をやれば、変わらぬ日常がそこには在ります。
ただ、目の前の現実としっかり向き合うこととは、今の日本に居る自分にとって、いったい何所に照準を定めるべきか迷うのです。東北地方を襲った自然災害と原発事故の余波は止まるところを知らず、どこが底なのか?まるでトンネルの中で出口が見えない恐れに巻き込まれている自分に気づきました。
今年のドリームマップが、こんなに厳しい状況のもと迎えることになるなど予想もしていませんでした。震災から10日後に控えたドリームマップの開催について、しばらく迷いました。こんな時期に、果たして皆夢の地図など創りたいと思うだろうか? もとより、当日交通機関はどうなっているのだろうか? 情報が混乱し、1日先のこともはっきりしない状況が続き、私自身もしばらく鬱々とした気分で過ごしていました。
そんな中、家族や友人に電話やメールで安否を確認してみると、誰もが希望を失い、口々に不安を訴えているのを聞き、気づくと頼りない自分が彼らを励ましはじめていました。
安否を確認できたら、まずは今できることに意識をむけ、明るい気持を選択できるよう、声をかけていきました。
そうする内、だんだんと自分の中に希望の灯が点るのを感じたのです。
今年のドリームマップのテーマは<豊かさ>を受け取るレッスンでした。
もう一度、自分自身の枯渇した気分に光をあて、豊かさを見いだすために答えを探した結果、開催することに気持が自然と定まりました。
今、とりあえず開催するというより、今だからこそ、自分の中の豊かさを見つめてみたいと思ったのです。
実際に、どれだけの人が参加可能か、当日まで予測が出来ませんでした。
そして、開催初日、8割の人が元気に顔を見せ、無事スタートすることができたのです。
地方在住で参加を見合わせた人達も、ワークショップへの思いを伝えてくれたことが心強く、私達自身の力となってくれました。
ワークの中で、誰もが皆今自分が体験している心の動揺や変化について真摯に語り、このワークにコミットして経験していくことが、これから先の道筋を見いだす準備なのだと気づき初めていました。
ワークのテーマである豊かさは、単に求めれば良いものではなく、「豊かさとは何か?」「何を自分は求めているのか?」「求めているものを自分は受け取る価値があるのか?」という最大の壁を目の前にして、皆立ち止まりました。
人間は不思議なもので、頭で理解しているように、心が寄り添っていかないものなのです。
つねに葛藤を抱え、次第にその葛藤さえ見えなくなってしまいます。
だんだんと、求めるものなど手に入らないかもしれない、という思い込みに思考は一杯になり、次第に願うことさえ諦めてしまうのです。
その思考と感情を改めて見つめ直し、心をリラックスさせることで、自分の中が整頓されてくるのです。不安から求めるものを決めるのではなく、自分の本来持つ力や意図に気づき、あらためて未来へ標準を定めたとき、夢が見えてきます。
無心にドリームマップにイメージを描きながら、はじめて自分が何を求めているのかに気づいた人もいました。
最終日は、豊かさを自分の中に見いだしたみんなと一緒に、被災地にむけて、鎮魂と復興への希望の思いを込めて全員で絵を描き、祈りを捧げました。
私達の想像を遙かに超えた災害の体験は、安全な場所にいる私達自身にとっても、恐れや緊張、無力感を感じさせるものでした。
しかし、希望を創り出し、その力を捧げるために祈り、絵を描く内に、みんなの心は一つになっていました。災害に対する不安や無力感は、いつしか希望と勇気に変わって行きました。
「今、ここで自分達にできることは何だろう?」それを真剣に見つめるとても貴重な時間になったことは間違いありません。
「私のドリームマップは祈りそのものでした。」
参加者の一人の方がそう語ってくれました。
そして皆口々に、この時期であったからこそ、真剣に自分の夢について考えることが出来た…とも。
こんな時期に参加してくださった人たちの勇気や正直な姿に、感動と感謝の気持ちしかありません。そればかりか、皆口々に「開催してくれてありがとう」と声をかけてくれたこと、本当に胸が熱くなりました。
みんなで祈りの輪を創りながら、これからの未来に向けて希望のエネルギーを創造しました。
私達が期せずして体験しているこの出来事を、きっとさらなる成長や肯定的な変化に繋げる大きなステップにするために、私達一人一人にできることがきっと在るはずです。
地球という奇蹟の星に棲む私たちは、大きな教訓を学びました。
自然と共生する大切さ、エネルギー資源を利用する責任、文明のもたらす光と闇。
もしも、私達が自分の生活だけを守ろうとしたら、とたんに恐れに捕らわれてしまいます。
しかし、私達が人類の未来に照準を当てたとしたら、考え治さなければいけないこと、工夫すること、さらなる意志を持つ必要性が生まれるはずです。
日本の復興に向け、私達の役目は、かつての生活を取り戻すことではなく、新しい未来をどう創るか?について模索することがプライマリーなのだと思えます。
便利な生活を追求して結果生まれたファーストライフや個人主義のもたらした課題について、今本気で考える必要を迫られるいるような気がしてなりません。
鎌倉の計画停電は日に2回(それもお昼時と夕食時)在る時も…。
はじめは困惑しましたが、自主的に一日中暖房を止め、この機会を真摯に受け止めて過ごすことにしました。気づくと、だんだんと自分の内から世界へと意識が広がっているような気がしています。
関東ではすでに桜のつぼみもふくらみ春を感じさせるこの頃です。
東北地方にはいつ本当の春が来るのだろう?とやりきれない思いがつのります。
被災された人々の中には、これまでワークに参加してくださった人もいます。
現地では想像を絶する戦いが現在も続いていることを知り、愕然としました。テレビはやはりどこか実感を伴わない経験なのでしょう。義援金の他にも、実際に物資を提供するなど、出来ることに手を尽くして行こうと思うだけです。
この時期、貴重な3日間で得た勇気と希望の灯をともして未来へと向かうエネルギーに変えていくとを心に誓いました。
今年のドリームマップのことは、きっと何年経っても忘れないでしょう。
勇気を与えてくださったみなさんへ、本当にありがとう!
皆さんの夢はそれぞれの日常の中で確実に豊かに広がっていくことでしょう。
その一つ一つ、一歩一歩を毎日紡いでいってください。
今年一年が、みなさんそして復興を目指し立ち上がろうとしている被災者の人々にとって、希望へと向かうチャンスとなることを、心から祈っています。
いつか北の地に訪れる春の息吹を信じて…
愛と共に
吉田エリ