また今年も援助者のためのトレーニングコースがはじまりました。この講座を設けたきっかけは、自分自身がセラピストになるために必要だった知識や、ノウハウを伝えることが目的でした。
しかし、実際には、私がみなさんにお伝えしたいのは、スキルやテクニックではなく、それを使う人が誰であるか?という事なのだということを、改めて強く感じています。
「自分とは誰か?」がこの講座のテーマです。
私がアートセラピーに触れて10年以上の年月がすぎましたが、その間に学んだ心理学や心理療法、そしてカウンセリングのトレーニングの他、およそ四半世紀にかけて感心を持ち続けてきた西洋や哲学や東洋思想そして精神世界を紐解いてきた体験がベースになっています。
25年以上前は精神世界の本など数えるほどしかなかったような記憶があります。
聖書や仏典の他は、クリシュナムルティーの対話集やシュタイナー、そしてラジニーシなどのほか、シャーリー・マクレーンのような読みやすい自伝小説などが精神世界系の棚にはありました。そして私にとって科学の世界と精神世界とを繋いだのは、マリリン・ファーガソンの「アクエリアン革命」でした。
先にご紹介した「チベットの死者の書」などはそのころの愛読書のひとつです。
そんな心理学とはかけ離れた世界からのスタートでしたが、近年「表現アートセラピー」の世界と出会い、その可能性や私自身の興味の対象であるアートと心理の融合が叶ったように感じています。
自己啓発のトレーニングやワークショップは趣味のように体験していましたので、表現アートの場はとても自分にとって居心地の良い空間でした。
また自己啓発セミナーのような、心理面でのエッジを強烈に極めることもなく、安全で安心した場を体験できることも魅力です。
この表現アートの世界を理解するために、ナタリー・ロジャースを経て、父親であるカール・ロジャースへの関心が深まっていきました。
すべての療法のベースには、カウンセリングというプロセスが存在します。
そして、このカウンセリングには様々な学派が存在していますが、日本ではロジャースのパーソンセンタード・カウンセリングの人気が高いようです。
私自身は、その理論もさることながら、彼の人間性にとても惹かれるものがありました。
本講座で、参加者のみなさんにも推薦した『カール・ロジャーズ入門―自分が“自分”になるということ』には、彼の人間的な側面が詳しく紹介されています。
私が彼のカウンセリングに惹かれる理由は、彼の生き方にあるのかもしれません。
彼の人生から受け取るメッセージは、援助者が完全な人間でなくてもかまわないけれど、その人がつねに自分自身を知り、本当の自分とは何か?を模索し続けることにある・・ということでした。
私自身が、自分の人生にゴールはなく、常に成長し、変化しつづける存在であることを実感することから、それがクライアントと向き合う姿勢のベースになっています。
私自身が講座で教えられるのは、立派な理論ではなく、この数年クライアントと向き合ってきた中で得た知恵や気づきだけかもしれません。
人と人が、心の壁をとりはらい、在るがままの姿で向き合いことのすばらしさについて、これから学んでくださる人達へ伝えられることを願っています。