より良く生きるデザイン学

最近、出逢う人と、生きがいについて話すことがある。多くの人が、人生の目的(ビジョン)を見失い、迷ったりしながら、生きるとは何か?と模索しているように思えた。

Well-beingとは、心や身体が良好な状態を指す言葉だが、直訳をすれば「幸福」「幸福感」という意味がある。もう少し解りやすく表現すれば、「より良く生きること」を指す。もしも、あなたが自分のビジョンを見失っているとしたら、このWell-being「より良く生きること」について考えてみると良い。

人は、元来より良く生きることを求めている。今よりも、もっと幸せになりたいと願うことは自然なことなのに、気づくと変化を怖れ、現状維持や妥協の人生を送ることを知らずに選んでいるのは何故なのだろう?

誰でも頭の片隅で、「こうなったら良いなあ」とか、「こんな風にしたらどうだろう?」という妄想を描いたことがあるだろう。しかし、それを実際に実行に移すことは少ない。なぜなら、「面倒だから」。

北大路 魯山人の短編「料理の第一歩」にそんなものぐさな男の話が出てくる。
男は女房に去られ、食事の支度をするのが億劫で、空いた腹を空想で満たそうとする。「畑を作ったらいいかもしれない」「清潔な台所を作ろう」「そうだ、果樹園ならすぐに果物が食べられるぞ…」
そうやって考えているうちに男の頭はパンパンにふくらみ、果てはびっくりするような結末を迎える。

「男は何も間違ったことはしなかった。ただ、実行しなかっただけ。世の中には、正しいこと、良い事を考え、言う人は多い。そして一つも実行しない人間もいる」

魯山人は、最後にそんな言葉で結んでいる。

この話を読んで、私も耳が痛かった。(笑)
この自分も、これもしたい。あれもしたい。もっとより良く生きたいと思うけれど…、行動するのは面倒だと思い、つい何でも先延ばしにしてしまうからだ。

さて、これではより良く幸せに生きることは難しい。
現状維持ですら、心許ない。では具体的にどうしたらいいのだろう? ここは頭を大きく膨らませるのではなく柔らかくしてみることにしよう。

以前、ケン・ウィルバーのインテグラル理論をベースにしたアートメディテーションの連続講座を提供する機会があった。参加者の多くは、理論を知ることで、現状の問題から抜け出し、新たな視点を設けることが可能になったが、実生活の中で学んだ知識を活かすことにむずかしさを感じているようだった。

知識は、いろんな可能性を生み出すことはできるけれど、実践しなければ智恵にはならない。机上の学問ではなく、理論を生活の場で実践するための機会がつくりたい…。そう思い、暮らしや人生をデザインする<LIFE DESIGN ライフ・デザイン>というプログラムを考えてみた。

ライフデザインとは、暮らしをより快適に創造することである。デザインの概念は広いので、一言では説明するのは難しいけれど、ここで少しデザインについて考えてみよう。

デザインとは、「意匠・設計・図案」という意味を持つ。「もっと美しいもの」「機能的なもの」「心地良いもの」という必要性(意図)に従って、機能や創り出す工程を考えながら構想をすることをデザインという。

アートには、目的は無い場合が多いが、デザインと<必要性=意図>は切っても切れない関係がある。必要性という強い意図が無ければ、創造のプロセス(設計)は生まれない。
「必要は発明の母」という言葉があるが、発明とデザインとが異なるのは、発想に美のセンスが加わることにある。

デザインに従事している人(デザイナー)でなければ、デザインが出来ないと思っている人は多いが、そんなことはない。誰でも、必要性という欲求があればデザインは出来る。

例えば、私は北軽井沢にアトリエを持っているのだが、この家のデザイン(設計)は、自分で手がけた。とは言っても、私に建築の詳しい知識があったわけではない。むしろ、設計などの左脳的な作業は苦手なほうだった。しかし、家を建てる必要性や、暮らすイメージが強くあったので、たどたどしくも自分なりに落書きとも取れる設計図を書きはじめた。
センスについては、あらゆる雑誌や書物を参考にして身についていった。

できあがった設計図の構造計算をプロの建築家に頼み、建築費を抑えるために、大工さんの邪魔をしながら(笑)自らトンカチをふるい、壁を塗って完成した。それは、まさに自分のニーズを満たす家となった。
たとえ、高名な建築家やインテリアデザイナーに手がけて建ててもらったとしても、できあがったものに不満を抱えていたかもしれない。

つまり、良いデザインとは、「自分のニーズを満たしている」という点にある。ニーズを満たすためのアイデアをスケッチするうちに、自分のビジョンが見えてくる。本当に必要なものは、試行錯誤の中で生まれるのだ。

こんな調子で、私は欲しいものが売っていなければ、(もしくは、高くて買えない場合は)解体したり、組合わせたりしながら、自分で創り出すことを常に考えてきた。
自分の中に、そんなわがままで、試行錯誤が大好きな人格がいてくれたおかげで、人生を豊かに暮らしてこれたように思う。

さて、より良く生きるという話からデザインまで話が流れて来たけれど、この必要性という欲求は、理想の人生を創造するきっかけや動機となるようだ。
誰しも、「もっと才能があれば…」とか「お金があれば…」と思うのかもしれないが、それよりも「どうしても、こうなりたい」とか「これが欲しい」と望むことのほうが現実を創造する可能性は高くなる。

しかし、望むことはできても、実行するのは難しいと感じるに違いない。はじめの一歩を踏み出す時に壁が現れる。
だから、多くの人が実践者ではなく、夢想人として終わるのかもしれない。「めんどうくさい」という最強の言い訳は、人生を台無しにしてしまう。その言葉をつぶやきつつ、あの夢想する男のようになってしまったら…。
結末は本をご覧になっていただきたい。(笑)

その物語の最後に、魯山人はこう綴っている。

「料理を美味しくこしらえるコツは実行だと思う(中略)わたしたちは、したいと思っても、しようと思うのはなかなかだ。しようと思っても仕上げるまでには時を必要とする。だが、したいと思っている心を、しようと決心するには一秒とかからない。(中略)やってみない先から、とてもできないと思いあきらめている人があまりにも多すぎはしないだろうか。料理はいつもわれわれの日常生活とともにある。そして、そのコツもいつもわれわれのいちばん手近にある。ー魯山人「料理の第一歩」より

より良い人生をデザインするためのコツは、より良く生きようと決めて、まず第一歩を踏み出すことだ。それはたった一片の落書きでもいい。デザインという美意識を育てるノウハウを身につければ、人生のビジョンを見つけることができるだろう。

ライフデザインワークショップは、来週末からのスタートします。講座では、心や身体から衣・食・住をテーマに、日常生活に活用するための暮らしに関するスタイリングやデザインのスキルを実践的に学んで行きます。

ぜひ、より良い人生を作るコツをつかみに来てください。

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