海とバジル

十年以上前のこと、畑仕事に興じたことがありました。

田舎に50坪ほどの土地を借りて、農作業のまねごとをしてみたら、これが案外楽しくて、当時決してアウトドア派ではないと自覚していた自分にしては以外なうれしい体験でした。何が楽しいか、もちろん無農薬の採れたての野菜を楽しむことができることは言うまでもありませんが、いちばんはまったのは土いじりでした。畑を耕し、畝をつくり、そこに苗や種を植えていくのですが、この土いじりは最高のリフレッシュでした。

土を手で触る感触は、なにかとても「正しいこと」をしている感覚なのです。正しいって変ですけど、「良い、悪い」ではなく、ただ「正しい」のです。一日作業に明け暮れ、夕方土の上に座り込んで風に吹かれていると、「ああ、今日はとっても良い日だった」そう思えるのです。

表現アートセラピー画像6そんなふうに畑で過ごした数年にわたる経験を綴った本が週末だけのキッチンガーデン
という拙書です。当時は、キッチンガーデンという言葉もあまり知られていない頃。イギリスのキッチンガーデンを憧れてつけた題名でした。その本の中で、いろいろ料理を紹介しているのですが、このレシピは自分でも未だに活用しています。

たとえば、バジルソース。

毎年、取れたてのバジルでジェノバペースト(バジルソースの別称です)を作るのが楽しみです。これだけは、市販のものでは物足りません。

新鮮なバジルに、たっぷりとニンニクや松の実、そしてパルメジャーノ・レジャーノ(粉チーズです)を入れてつくります。

表現アートセラピー画像2 ここ、鎌倉に引っ越した時、小さいながらもお庭がついているのが気に入りました。いままで都会のマンションのベランダでは、狭くて野菜を育てる気にもなりませんでしたし、軽井沢のアトリエには夏しか行かないので、種まきすることもできません。鎌倉だったら、いつもハーブをそだてられると思い、夏が来るのが楽しみでした。しかし儚くも、この期待は予想外の展開を迎えることとなったのです。

引っ越して初めての春。いそいそと沢山のハーブの苗を買って来て、意気揚々とコンテナに植え付け、「あとはのんびり収穫を待つだけ…」と思いきや、順調に育っていたバジルの葉っぱたちが、初夏の台風が去ったあと、見るも無惨な状態に…。

どうやら、塩害にやられたのでしょう、葉っぱはすべて黒く枯れ果てていました。ハーブの中でも強いと言われているローズマリーや、タイムまで全滅でした。ぐったりしたハーブのコンテナを前にして、しばらく呆然としてしまいました。残念ながら、海とバジルは共存できない間柄なのですね。

表現アートセラピー画像3海辺で暮らすことに、こんなリスクがあったなんて想定外の出来事でした。

それでも、また春が来ると、花屋さんの店先に並ぶ苗を見るとそわそわしてくるのは、畑病のせいでしょうか…。「もう同じ轍は踏みたくない!」と、今年はあきらめモードだったのですが、ジェノベーゼ・ソースの魅力には勝てず、性懲りもなく再度挑戦。日々、育っていくバジルを見張りながらドキドキしながら過ごしていました。

幸い、今年は初夏に風も少なく、バジルは順調に育っていきました。あんまり元気なので、「もう少し育ってから…」と欲を出したのがいけなかった。ちょうど収穫の頃、WSが控えているその日の朝、出かける頃に海風が吹き始めました。海辺の風は、砂と潮が一緒に飛んできて、それが葉にくっついてしまいます。週末の2日間、留守にする間に、潮にやられてしまうかもしれません。あれこれ思考の末、後ろ髪を引かれながら、バジル達に「帰ってくるまで、待っていてね!」と、お祈り(神頼みですね。)して、出かけました。

表現アートセラピー画像4そしてワークを終え、急いで家路についてバジルの顔を見てみると…。Thanks God! 皆、なんとか息も絶え絶えという感じでしたが、持ちこたえてくれていました。

次の朝、雨模様の静かな日。海の家での、はじめての収穫をしました。
久しぶりの手作りのジェノバ・ペーストです。

できたてのソースを使って、さっそく夏らしい冷製のパスタをつくってみました。
小さなコンテナの中で育てたバジルでしたが、その味は、確かに大地とちょっと潮の香りがしました。

う〜ん、なんて美味!名付けてナポリ風ジェノバ・ペースト。
沢山作って、冷凍しておけば半年でも持ちます。
これで夏のワークショップも安心。

 表現アートセラピー画像5夏に軽井沢のワークショップに来られる方々、乞うご期待!

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