ようやく、その前に立った時だった。
ゲルニカと出会った時と同じような強烈な振動とも思える圧を感じたのである。
熱い温度や音。
数枚並んだビルケナウ作品の一つが、雄弁に語りかけて来た。
私は、突然の衝撃に心臓が高鳴り怖くなった。
それはまるで収容所に閉じ込められた霊の叫びのようだったからだ。
展示されていた他の作品には感じなかった不思議な感覚なのだ。
リヒターは、現地を撮影した写真の中に閉じ込められた霊達の恐怖を鎮魂するようにこの作品を絵描いたのだろうか…。
どんな説明も不要だと云わんばかりに、ビルケナウは無言の声を放っていた。
あらためて、アートリテラシーのことを思い出した。
表現アートセラピーの講座で、アートリテラシーについて話す時、いつも私は伝えている。
絵画を解釈しないでください…と。
アートとは生きている魂そのものです。
それを理解しようとしないで、心の手触れて、感じ、耳を澄ませてください。
彼らは雄弁に語りかけてくるはずだから…。
その温度や振動は、かならずあなたの魂を揺さぶるだろう。
ゲルハルト・リヒター展
東京国立近代美術館にて10月2日まで
豊田市美術館にて10月15日より2023年1月29日まで